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エリーside
春風が新しい季節をつれてきても、ちょっぴり切ない気持ちになるのは、きっと・・・恋をしてるから。
学校帰り。
大学生のお姉さん達に紛れてお目当てのお店に向かう途中、コンビニのトイレを一人でプチ占領。
制服のスカートを上げて、少し残念な短めのマツゲにマスカラを重ねる。
コテでくるんと巻いた毛先に、目一杯背伸びしたクロエの香水をひと吹きしたら、気分はちょっぴり大人の女。
バイト代をはたいて買ったアガットのブレス。
そして唇にはジルの16番ピンクウィンク。
…よし。
絶対可愛い、…うん。
制服で行くのだってわざと。
煌びやかな女子大生のお姉さん達に勝負するんだもん。
制服はむしろ武器でしょ。
子供扱いされるなんて思わない。
だって私はこれしか今は武器がない。
「エリー」
大好きな人がつけてくれたその呼び方。
私だけの宝物。
「おまえ化粧しすぎ」
そして一時間もかけた私の努力は水の泡。
「…このくらい今は普通だもん」
目の前に置かれたピンクサイダーは子供の証。
だってコーヒーなんてちっとも美味しいと思えない。
「俺の好みに近づきたいんだったら真逆ですよエリーちゃん」
分かってるよそんなの。
このお店に初めて来た時からそんなの分かってる。
「いーのっ、ほっといて」
だって、いっぱい着飾らないと勝ち目なんかない。
可愛くデコレーションして美味しそうにしてなくちゃ、生クリームと苺だけの王道のショートケーキのあの人には、一個も勝てないもん。
初めてこのお店に来たのは合コンの帰りだった。
相手の男の子達に誘われて入ったお店は、表にサーフボードが立ててあってカウンターにはお酒の瓶がいっぱい。
店内には、まだ季節は冬だったのに‘夏真っ盛り’みたいな英語の曲がかかってた。
その内に調子にのった男の子の誰かがお酒を頼み始めて、場の雰囲気を壊すのも嫌で…止めれなくて
ぇ、どうしよう…な空気。
「可愛い子の前でイキガってるとこ悪ぃんだけど、おまえらどう見ても未成年でしょ。どこの高校かお兄さんに言いたくなかったら帰った方がいいかもよー」
カウンターから出てきたその人は、右の耳にひとつだけ光るブルーのピアス。
ゆるくパーマがかった髪をオシャレに流して、笑ってるのにちょっと鋭い目つき。
『はい帰った帰った』と私達を無理やり店から追い出すその人は、ドアを閉める前ににっこり笑って
「あ、今度は女の子達だけでおいで?」…って。
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