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重い体をひきずるように、
電車へ乗り込む。
平日の終電間際、乗客は疎らで、
しかし一様に皆疲れた顔をしている。
最寄りの駅は彼女と一緒のはずだったが
見かけることはなかった。
ーー偶然などそうそう転ってはいない。
頭では理解していたが、
どこかやるせない気持ちを抱え
毎日を過ごしていた。
シートの背もたれに身を預け目を閉じる。
閉じた瞼に影を感じ、
薄く目を開けた。
彼女は吊り皮につかまり何食わぬ顔で、
僕の顔を覗き込む。
動揺を隠すため電車の窓に目をやると、
雨つぶが雫を落としていた。
『雨、降ってきた?』
『うん、少し濡れた。』
彼女は躊躇うことなく僕の隣に腰を下ろすと、
バッグからハンカチを取り出し髪と頬を
おさえた。
『いつもこの時間?』
『いや、大体終電。』
『じゃあ、普段から会わないわけだよね?』
『だな…、、』
当たり障りのない意味の無い会話に
意味の無い苛立ちを感じ、
小さな溜め息が零れ落ちる。
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