not simple

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目に入った天井に違和感を覚えた。 ゆっくりと瞬きをして数時間前の出来事を反芻する。 こめかみの鈍い痛みを堪えて身体を起こす。 明け方近くに脱ぎ捨てたはずの服は、 きちんとハンガーに掛けられカーテンレールにぶら下がっていた。 ベッドサイドの小さなテーブルには飾り気の無い鍵とメモ。 『カギはポストへ』 右上がりの癖のある字。 何故だか、いたたまれない気持ちになって急いで服に袖を通した。 焦りのせいか施錠の音がやけに大きく響いた気がして心臓がギュッとなった。 小走りに階段を下りると部屋番号もろくに確認せずに鍵を郵便受けに落とす。 カツンッと金属の乾いた音がした。
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