1人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
夢を見た。
初めにひらひらと赤いカーテン。
遠くから聞こえるのは犬の遠吠え。
現実感のない光景はスクリーンの向こうの出来事のようだ。見つめている間に、触れない世界は赤く赤く熔け落ちてゆく。
やがて揺れるカーテンは暗闇の中に消えた。ざわざわと騒ぐ観客の声が耳に障るけれど、それすらスクリーンの向こうの音。フェードアウトしてゆく景色と一緒に、やがて世界からは音さえも消えてゆく。
覚醒とともに目を開く。
薄く開いた瞼に映ったのは見慣れた天井と。
決してあるはずのない、雲一つない空の青だった。
『ボーダーガール』
1
さて。いきなりですが自己紹介をします。
城本咲(さき)、二十歳。大学二年生。
趣味は音楽鑑賞と読書と散歩。まるで無趣味人間が適当にでっち上げた趣味を並べたようなラインナップだけれど、それも当然。実際趣味と呼べるほど打ち込んでいることなんてないので、たまにする程度の暇潰しを並べたに過ぎない。「もうちょっと話が広がりそうな趣味はないのか」と言われることもしばしばだけれど、そんなものがあれば音楽鑑賞とか読書とか言う前に自分から言うに決まっている。
見た目にも特徴と呼べるほど人と違う所がある訳じゃない。髪の色も少し根元が黒くなってきた茶髪、髪型は外ハネのレイヤーを掛けた肩までのストレートだ。服装だって特に金を掛けているでも、逆に極端に金を掛けないでもない。特別な趣味もなく、見た目にも特徴がない平々凡々とした私だけれど、自己紹介をすると一発で顔と名前を覚えてもらえる確率は高い。
その理由がびっくりするほどキレイとかカワイイとかなら、もうちょっとチヤホヤされる日々を送っているのだろうけれど、生憎その辺は普通だ。残念ながら顔でいい目に遭ったことはない。
理由は二つ。
一つは、私が常に左目に眼帯を着けているから。
別に眼病を患っている訳じゃない。単に左目が使い物にならないので、ないものとして生活するには眼帯が必要なだけ。
視力がない訳じゃない。けれど、この左目は全く使い物にならない――見えるべきものが全く見えておらず、見えなくていいものが見えてしまっているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!