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ジンジャーのようなスパイシーな香りの中に僅かに甘い匂いが混じる。誰かがセンセイと同じ香りを身にまとっていたのだろう。センセイの顔がグルグルと脳内を勝手に回る。車内で嗅いだあの香水のせいだ。マスクと帽子の隙間から見える鋭い目つき。 ……ひっそりと獲物を狙う、何か。 人の気配と共に治療台が機械音を立てて背後に倒れた。視界の隅から男性の手がライトに伸び、パチンというスイッチ音と共に眩しくなる。それを遮るようにセンセイは現れた。 センセイはアイロンの効いた大きなマスクと帽子を付けていて、その隙間からは切れ長の目と目尻のホクロが見えた。キリキリとする奥歯の痛みより、緊張のほうが上回った。歯医者独特の緊張感とは違っていたと思う。 突然、センセイの指が唇に触れた。
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