いつの間にか

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いつの間にか、俯いて歩くことが多くなった。よく背筋を伸ばせと注意されるようになった。背筋を伸ばして歩くようになったら、目つきが怖いと言われるようになった。目つきを隠すために髪の毛を、特に前髪を伸ばすようになった。いつの間にか、いじめられるようになっていた。 いけなかったんだろう。何が悪かったんだろう。私は他人に逆らわないように、従って生きてきたはずなのに、それが一番、楽で、苦しくない生き方だったはずなのに、どこで間違ってしまったのだろう? 「…………」 でも、そんなことも、いつの間にか普通になってしまうまで、時間なんてかからなかった。憂鬱だと感じることも、鬱屈な気持ちもない。多分、そういうことだと私は受け入れてるのかもしれない。 いじめられていることを、普通なことだと思えるようになったのだ。 「おはよー、桐原さん」 クラスメートのひとりが、私の、桐原香苗(キリハラ、カナエ)の名前を呼んで、背中を思いっきり叩きながら挨拶していく。もちろん。私は挨拶してきた子と仲良しというわけじゃない。クラスに私と仲良くするような他人なんていないんだから、それに叩いた箇所が、背中だということも気になったけど、別にいいやと歩き出した。
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