第1章の続き

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 「蓮、お疲れ様」  普段聞いたこともない千里のそのセリフには、これから自分とお腹の子供を養うのはあなたなのよ、という気持ちが込められている気がした。  「ねぇ、これ見て」  そう言って千里が差し出した10センチ四方くらいのペラペラの紙には、白黒のノイズのようなものがプリントされていた。  「なんだよこれ」  「わたし達の赤ちゃんだよ。まだ1センチもないんだって」  動いていればまだしも、紙切れ1枚では全く実感など湧いてこない。  それよりも、予測はしていたが、千里の態度には、産むか堕ろすかといった話し合いをする様子など微塵も感じられない。  その態度には潔さすら感じられ、こっちの悩む手間が省けた、という短絡的な気分にさえなった。  「ねぇ。社長に相談してみてよ」  「何をだよ」  「わたし達の暮らすところだよ。家族の居る人は、もっと広いところ借りてもらってるんでしょう?」
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