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「そんな怖い顔してるから、後輩は怯えて聞き辛いんじゃない?」
背後から突然聞こえた低い声。
私とミチルは目を丸くして振り返った。
「・・・か、かず・・」「結城先生!」
私とミチルの声が重なる。
「どうして先生がここに?」
私よりも先に、ミチルがその問いを声にした。
「605号室の久保川さん、血液データが落ち着き次第オペする事に決まった。だから、外科転棟になるまで俺がこっちで診ることになったんだ。またよろしく。点滴指示を出したいからその電カル借りるね」
和馬は、私とミチルの間に置かれたパソコンを指さし、まるで私が視界に入っていないかのようにミチルだけに微笑みかけた。
和馬は丸椅子を足でずらし、立ったまま黙々と私の隣で電カルに向かう。
「・・・」
私は言葉を交わすことなく、ただ彼の横顔をジッと見つめた。
「神崎さん、今日はピリピリしてるね。睨まないでくれる?恐いから」
和馬は、視線を画面に置いたままククッと鼻先で笑った。
なっ、なにー?!
誰のせいでイライラが増してると思ってんだ!
放置されてもう1週間だぞっ!
怒りと共に沸き起こる悔しさに、キーボードの横に置いた拳を握り締めた。
「ねえ・・・喧嘩してるの?」
私のただならぬ表情を見て、戸惑うミチルが和馬に聞こえないほどの小声で私に耳打ちした。
「別に・・・してない」
私はスッと椅子から立ち上がり、和馬に背を向け患者の内服薬が並べられたワゴンに向かって歩き出す。
「準夜勤は新川さん?久保川さんの採血指示を出しておいたから拾っておいて」
「あ・・・はい。わかりました」
和馬は私を気にする様子もなく、ミチルに指示だけ伝え終わるとさっさとステーションを出ていった。
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