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一晩の遊びだと見え透いた場合は誘いには乗らない。少なくとも私を恋人にしたいと思う男を選ぶ。そしてそれをベッドの上で確かめるのだ。
食事を終えて支払いをする。財布を出して男の様子を見る。昨夜の夕食の支払いもホテルの代金も払ってもらったから悪いと言葉にすると、男はそれでも支払うと言った。釣ったあとにも餌を撒く男。私の目に狂いは無かった。
エスカレーターに乗り、階下の売場を冷やかしながら出口に向かう。1階に着くとフレグランス売場が目に入る。私は何気なく近寄り、カラフルな瓶の中からクリスタルなのを手にした。
「……」
あの香り。
「どうかした?」
オリエンタルなお香の匂いに混じる、ほんのり甘い花の匂い。手にした瓶を見たが、ラベルにはサボン《石鹸》と書かれていたからこれではない。念のため手前のグラスに置かれた10センチ程の細長い試香紙を摘んで鼻に近付ける、名の通り爽やかな石鹸の匂いだ。
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