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でも収穫はあった。フレグランス店員から手渡された紙袋はセンセイと同じ紙袋だった。センセイはこのフレグランス売場で香水を買った。ということは恐らくこの売場の何処かにセンセイの香水がある。無意味な収穫。 私は男とはそこで別れて地下の食料品売場で買い物を済ませた。土曜日の午後、変わって無ければ歯科医院は休診。センセイはまだあの歯科医院にいるのだろうか。大学病院や総合病院なら午後休診の歯科も多い。でもセンセイは個人の歯科医院にいた。蓮田デンタルクリニック……、名前が違うところを見るとセンセイは雇われ医師だと推測していた。確かに院長先生と呼ばれた年配の医師もいた。親子というほど歳は離れて無かったように思う。 『毎日勉強で嫌になる、と言いたいのでしょう?』 『……』 『未来を選べるのは特権です』 スーパー袋を下げて駅に直結する地下道を前にする。このまま駅に向かえばいい。でも私の足は1階の売場に向かう。 店員は私を見付けて怪訝な表情をする、何か不備があったのかと心配になったのだろう。彼にも香水を贈ろうと思ったので、と咄嗟に嘘をつく。 「どのようか香りがお好みですか?」 「お香のようなアジアンチックな……さっきこの辺りで香りが……」 「こちらでしょうか」 店員は私の片言に意味を理解したのか、琥珀の瓶を差し出した。つまり私達の前にいた顧客の残り香。センセイの香り。 「これ……ですか?」 差し出されたのは見たことのある瓶。
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