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昨日は結局あの後、私は一度も起きることなく煌騎の腕の中で熟睡してしまったらしい。
目が覚めるとまたあの倉庫のベッドに寝かされており、そして当然のように煌騎が私を抱き枕代わりに抱き締めて寝ていた。
びっくりしてモゾモゾ身動きしていると、目の前の彼がゆっくりと目を覚ます。
「………ん、もう起きたのか…チィ。まだ早い…、も少し寝てろ……」
寝起きの掠れた声でそう言うなり、煌騎は更に私を強く抱き締めた。
途端に彼から爽やかなシトラス系の良い香りが漂ってきて、胸がキュンとなって苦しくなる。
私は本当にこのままこの腕の中にいてもいいのだろうか……?
虎子ちゃんのお陰でこの気持ちが恋なのだとわかった。
でも同時に彼には既に決まった人がいると別の人から聞かされ、この恋は叶わぬものなのだと知る。
なら身分不相応だと諦めて、この気持ちを初めからなかった事にしてしまえばいい。
諦めるのは昔から慣れている。
そう思うのにこの腕の温もりを知ってしまったら、どうしても諦めがつかなかった。
―――もう少しだけ、ここにいてもいい…よね?
私は心の中で独り言ちる。
躊躇いながらも目の前の胸にその身を寄せようとした時、行き成り部屋の扉が大きな音を立てて開いた。
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