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私は内心冷や汗を掻きながら、どうして彼が既にそれを知っているのかと不思議に思っていると、流しで手を洗い終えた虎汰が意気揚々と目の前に現れた。
「ん?どしたの?」
コトの経緯を知らない彼は呑気に両手を振って水気を飛ばす。
その仕草がとても無邪気で愛らしい。
こういう時、可愛いって罪だなぁと思った。
私なら即、許してしまうだろう。
だけど後ろに立つモンスターは見慣れてる所為か、または同じ男だからか許す気はサラサラなさそうだった。
「………虎汰、テメェ…まさか言いふらして回ってんじゃねーだろな」
煌騎の地を這うような低い声音に私の身は竦み上がる。
なのに当の虎汰はヘラヘラと笑いながら“あぁ、そのことか…”と呟いた。
「この部屋にいる連中には話したよ?だってこんな面白い話ないじゃん♪」
虎汰は煌騎が怖くないのか先ほどからちっとも動じない。
それどころか彼を煽るような言動ばかりを繰り返す。
―――違うっ!? 虎汰は煌騎が本気で怒っているのに気付いてないんだっ!?
このままじゃケンカになっちゃうと思った私は、咄嗟に煌騎の腕の中に飛び込んだ。
「―――ッ!? 」
「煌騎、お腹すいた…ご飯、食べよ?」
「…………はぁ、わかった」
見上げると彼は長い葛藤の末、渋い顔をしながらも頷いてくれてホッと胸を撫で下ろす。
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