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男は虎子ちゃんの背に隠れるよう縮こまる私を見た瞬間、申し訳なさそうに顔を歪め、その場で潔く頭を下げた。
「すまない!怖がらせるつもりはなかったんだっ!! ただお前に再び会えると思うと、居ても立ってもいられなくて……」
「―――え、あ、あの……っ!?」
恥も外聞もなく頭を下げる彼に、私は驚いて慌てふためいた。
けれど間違ったことをすれば謝るのは人として当然の事で、頭を下げるのに年齢など関係ないと胸を張る彼。
驚きはしたが悪い人には思えなかったので少し警戒心を解き、私は虎子ちゃんの後ろからひょっこり顔を覗かせた。
すると彼はホッと息を吐いて嬉しそうにニッコリ笑う。
でもその笑顔を見た途端、私の思考はピタリと止まった。
「―――ケン兄…ちゃ…ん……?」
あの『こうちゃん』と同じく、私が子どもの頃よく見ていた夢に出てくる『ケン兄ちゃん』に、彼は瓜二つだった。
思い描いていた理想の『お兄ちゃん』……。
それが今、目の前に実在している。
煌騎の時にも感じたが、本物の『彼』に再会したような不思議な感覚に陥った。
「………やっぱりな、」
そうポツリと呟いたのは煌騎だった。
『ケン兄ちゃん』に似た彼も静かにそれに頷き、まるで懐かしむようにこちらを見ている。
私には何のことだかさっぱりわからなかった。
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