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またもや険悪な空気になり、虎子ちゃんや和之さんがその場を取り成そうとするけれど、両者とも頑として聞き入れようとしない。
救いを求めるように和之さんらがこちらを見るが、既に私は放心状態だった。
―――煌騎の中ではもう私を手放す事は決定事項なんだ……。
そう思った途端、目の前が真っ暗になる。
ちゃんと呼吸しようと思うのに上手く息ができず、指先も痺れたようになって震え出す。
何かがおかしいと感じた時にはもう身体が正常に機能しなくなっていた。
無理に呼吸すれば喉がヒューヒューと鳴り、目眩や吐き気もする。
煌騎に助けを求めようにも声が出ず、震える手で彼の胸元に縋るのが精一杯。
そんな中、逸早く私の異変に気付いたのは周りの誰より冷静な“健吾さん”だった。
「―――おいっ!? 彼女の様子が変だっ」
「―――え、」
その一言で皆が一斉にこちらへと視線を向ける。
煌騎も慌てて私の顔を覗き込み、心配そうに背中を擦ってくれた。
「チィッ、大丈夫かっ!? 」
「―――煌騎、コレを……」
直ぐさま“健吾さん”が往診用鞄から、使い捨てのビニール袋を取り出して彼に手渡す。
それを口元に当て、呼吸を数回繰り返せば楽になると指示を出した。
けれど私は首を振ってそれを拒んだ。
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