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「………珍しいな、考え事か?」
頭の中であれこれ考えていると、不意に声を掛けられた。
顔を上げれば和之が真剣な面持ちでこちらをじっと見ている。
何か言いたげな表情をしているが、こいつは決して俺に詮索したり意見したりはしない。
そのクセ、いつも欲しいタイミングで力を貸してくれる。
よほど物好きなのか、何も話さないこんな俺の傍に幼い頃から常にいて、喧嘩する時は背中を預けられる唯一の男だ。
俺の父親が鷲塚という男に絶大なる信頼を置いていたように、和之は俺にとって掛け替えのない存在だった。
「……いや、何でもない」
だが今回も俺は口を噤む。
チィの正体は誰にも、当の本人にですら話せないからだ。
真実を知った者は必ず“奴ら”に闇へと葬られるだろう。
このことは昨夜、健吾と電話で話し合って決めた。
「……また黙りかよっ」
流星が不服げにぼそりと呟く。
今回のことでは奴もかなり不満が溜まっているだろうが、危険を侵してまで動きそうなこいつらには尚更明かせない。
かといって鷲塚組の助力が得られない以上、事情だけは話して置かなければならなかった。
深い溜息を吐いた後、俺はゆっくりと重たい口を開く。
「……わかった、だがチィのことは身の安全の為に話せない。だから聞くな。それ以外なら話す」
そう言った途端、何故か皆がポカンと口を開けて固まった。
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