最強伝説

38/42
前へ
/325ページ
次へ
. 「………珍しいな、考え事か?」 頭の中であれこれ考えていると、不意に声を掛けられた。 顔を上げれば和之が真剣な面持ちでこちらをじっと見ている。 何か言いたげな表情をしているが、こいつは決して俺に詮索したり意見したりはしない。 そのクセ、いつも欲しいタイミングで力を貸してくれる。 よほど物好きなのか、何も話さないこんな俺の傍に幼い頃から常にいて、喧嘩する時は背中を預けられる唯一の男だ。 俺の父親が鷲塚という男に絶大なる信頼を置いていたように、和之は俺にとって掛け替えのない存在だった。 「……いや、何でもない」 だが今回も俺は口を噤む。 チィの正体は誰にも、当の本人にですら話せないからだ。 真実を知った者は必ず“奴ら”に闇へと葬られるだろう。 このことは昨夜、健吾と電話で話し合って決めた。 「……また黙りかよっ」 流星が不服げにぼそりと呟く。 今回のことでは奴もかなり不満が溜まっているだろうが、危険を侵してまで動きそうなこいつらには尚更明かせない。 かといって鷲塚組の助力が得られない以上、事情だけは話して置かなければならなかった。 深い溜息を吐いた後、俺はゆっくりと重たい口を開く。 「……わかった、だがチィのことは身の安全の為に話せない。だから聞くな。それ以外なら話す」 そう言った途端、何故か皆がポカンと口を開けて固まった。 .
/325ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1036人が本棚に入れています
本棚に追加