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主な理由は私が迷子になるからだそうだ。
というのは建前で本当は何かしらの事情があったらしいのだけど、残念ながらそれを推し測る事は出来なかった。
彼はどれだけ私を子ども扱いするのだろうなどと呑気にも思い、目の前の校門を見て妙に納得してしまう。
だから安心させてあげようと素直に頷いた。
「うん、わかった!」
「………いい子だ、チィ」
それを見て満足そうに煌騎は口端を上げ、また私の頭を撫でる。
けれど今度は褒められた事が純粋に嬉しくて、ニコニコと満面の笑顔になった。
「チィはホント煌騎の事が好きなんだな…」
堪らずといった感じで朔夜さんがフッと小さく吹き出す。
でもはっきりと聞き取れなかった私はきょとんと首を傾げてしまった。
「…………え?…な、何?」
「クスッ、聞こえなかったなら別にいいよ」
彼は直ぐに興味を失ったのか無表情な顔に戻ると前を向く。
その姿を見ながら普段は滅多に見せない笑顔なだけに、朔夜さんの言葉を聞き逃した事を酷く後悔した。
そうこうしている内に車は昇降口の手前で静かに停車する。
現金な私は途端に考えるのを止め、そそくさと膝の上に置いていたカバンを持ってそれをぎゅっと胸に抱き締めた。
降りる準備は万端ッ!!
初めての登校にもう胸がいっぱいだ。
ドキドキが止まらない。
まだかまだかと待っていると、まずは虎汰と流星くんがゆっくり腰を上げた。
「チィ、打ち合わせ通り危なくなさそうなら呼ぶからちょっとだけ大人しく待ってろよ?」
流星くんはそう言うと私の頭をポンポンと軽く撫で、虎汰と共に先に車から降りていった。
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