1036人が本棚に入れています
本棚に追加
.
「―――あうッ!?」
「あ~あ、潰しちゃったじゃないか……」
怒るというよりやれやれと呆れたように言う朔夜さん。
けれどその表情はとても穏やかだった。
不恰好になってしまったパックのジュースに私は目を落としながら項垂れる。
言うことを聞かなかったからこうなったのだと落ち込んでいると、煌騎が宥めるように頭を撫でてくれた。
「中身は変わりないんだから気にするな。それよりもそろそろ場所を移動しよう」
「そうだな、ここじゃチィも落ち着かないだろうし……」
和之さんも頷き、その言葉に同意する。
彼の指示で皆がゆっくり腰を上げて移動をしようとして、だけど次の瞬間ぴたりと動きを止めた。
少し離れた所にさっきの女の子がポツリと立っていたからだ。
「漸く私の存在に気付いてくれたようね」
彼女はニコリと笑って煌騎の前に歩み寄ってくる。
近づくその顔を見た瞬間、私は息が止まった。
先ほどは周りに男たちが取り囲んでいてよく見えなかったが、たぶん彼女を遠い過去に見たことがある。
でもどこで見たのかが思い出せない。
思い出そうとすると頭が割れるように痛くなり、記憶を遡る事ができないのだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!