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《愛音side》
「………気は済んだか、お嬢」
廊下の角から突如現れた男、神埼が口端を上げながら尋ねてくる。
たかが専属ボディーガードの分際で本当に嫌味な男だ……。
四六時中私にべったりくっついてて、先ほどの事もしっかり陰で見ていたクセにわざと私の神経を逆撫でする。
護衛を撒いた腹いせなのだろうが、婚約者の煌騎に袖にされて気が立ってる時に腹が立つったらない。
だがイライラを隠しもしないでキッと睨むも彼には効果なかった。
それもそうだろう……。
幾らこの男の見てくれが繁華街を彷徨くホスト風の優男でも、れっきとした裏社会の人間なのだ。
甘いマスクの下には底辺に蔓る弱者を容赦なく喰らい尽くす、そんな恐ろしい一面を隠し持っている。
鷲塚組唯一の後継者といえども私はこの男にとって、まだ操縦可能な16才の小娘なのだろう。
「職務怠慢も度が過ぎるとお祖父様に報告するわよ、神埼」
嫌味の一つも言ってやりたくて、隙を突いて脱走した自分の事は棚に上げて嘯いてみる。
けれど彼はやはり涼しい顔のまま私の後ろに張りついてきた。
「己の首を絞めたいならお好きにどうぞ。代償として今以上に自由がなくなるけどな……」
そう言われれば私は黙るより他ない。
本当に忌々しい男だと思った。
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