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「あの方はどうして命を奪っては下さらなかったのかしら。そうすれば私の心もこんなには乱れなかったのに……っ」
長年抱き続けてきた疑問がふと口をついて出る。
私の為なら何をしても厭わないと仰っていたのに、あの時はどんなに頼んでも命を奪うまではしてくれなかった。
ただ、時を待てと……。
今が無理なのならと純粋にその言葉を信じ、大人しく待っていたが約束は果たされぬままだ。
すると後ろに控えていた神埼が“何を言っているのだ”とでも言いたげにクスリと笑った。
それに眉根がピクリと反応し、私はゆっくりと振り返る。
「……何よ!」
「いや、やはりお嬢は世間知らずなんだなと思って……」
「―――なッ!?」
小馬鹿にしたその言い方が癪に触った。
咄嗟に手を挙げたが、寸でのところで神埼に手首を掴まれ止められる。
「俺の頬をブツ事ができるのは前から俺のものになったオンナだけだと言ってるだろう。それとも何か、お嬢は俺の女になりたいのか?」
「―――フザけないでッ!! 誰があんたなんかのオンナになりたいなんて言ったのよッ!!」
そう息巻くと神埼は酷い言われようだなと肩を揺らして笑う。
だが私は彼から腕を奪い返すと、話を逸らされたのにも気づかずにまた睨み付けた。
「馬鹿にするのもいい加減にしてッ!! 私はいずれ鷲塚組のトップに立つのよッ!! 少しは敬いなさいよッッ!!」
「フン……こんな事で頭に血が昇るなんてガキだな。先が思いやられるよ……」
上に立つ器ではないと言い捨てられて余計に腹が立った。
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