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その時、前方にHRを終えて職員室に向かう生徒会長の藤嶺さんがこちらに歩いてくる姿が見え、私は慌てて口を噤んだ。
神埼にも目配せして何事もないよう装いながら、無言で彼女をやり過ごそうとする。
が、藤嶺さんは何を思ったのか、普段は家業の事もあり敬遠しがちだったのに自ら私の傍に近寄ってきた。
その表情は不穏な空気を読み取ったかのように訝しげだ。
「鷲塚さん、どうかしたのですか?お伴の方とこんなところで……」
そう言うと彼女はこっそりと腕時計を見る仕草をする。
それに釣られて私も携帯で時刻を確認すれば、HRが終わってそう幾許も経っていないようだった。
優等生の彼女は遠回しに私がHRをサボった事を咎めているのだろう。
けれど私が煌騎の婚約者と知っている所為か、好意的に努めているのが見てとれた。
彼女は熱狂的な煌騎のファンだからだ。
「あら、神埼と今夜のスケジュールを確認していたのだけれど時間を忘れていたわ」
さも今気づいたと言わんばかりに私は大袈裟に驚いて見せた。
そして最上級の微笑みを彼女に向け、故意ではない事を最大にアピールする。
「藤嶺さん、ありがとう。あなたが通らなかったら私たち、いつまでもここにいる事になっていたわ」
「そ、そうでしたか。お役に立ってなによりですわ」
最後にニッコリ微笑むと、彼女は何故か少し頬を赤らめて俯いた。
私の笑みは男女問わず惑わす威力があると自負しているが、こうも覿面(テキメン)に効果が表れると失笑してしまいそうになる。
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