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元気そうに見えて彼は肋骨を骨折中なのだ。
至るところに包帯が巻かれていて痛々しい限りだけど、本人はすべて掠り傷だと言って譲らない。
「和之、チィ連れて向こうへ行ってろ」
煌騎は静かにそう言うと、私を隣に立つ和之さんに手渡そうとした。
でも何か嫌な予感がした私は彼にしがみついてぷるぷると首を振る。
「チィ?ほら、おいで?」
「―――あぁ、いいよ。彼女は俺が預かる」
手を差し出す和之さんにも首を振って微かに抵抗を示すが、健吾さんが後ろから近付いてきて私の身体をヒョイといとも簡単に浚う。
不意を突かれた為ろくに抵抗もできないまま、気がつけば私は上機嫌な健吾さんの腕の中にいた。
「や、やだ…煌騎の傍にいるぅ」
煌騎から引き離されてパニックに陥った私は、涙目になりながら懸命に彼に助けを求めるよう腕を伸ばす。
が、煌騎はそれを握り返してくれるだけで健吾さんから私を取り返してはくれない。
絶望感に苛まれて涙が零れ落ちそうになると、彼は何も言わず静かにもう片方の手を頬に当てて優しく撫でてくれた。
「大丈夫だ、心配ない。彼らは今からチームの事で大事な話し合いをしなきゃならないんだ。だから俺と向こうに行ってよう、な?」
口下手な煌騎の代わりに健吾さんが補足するように言う。
だけど私は頑なに首を振り続けた。
「ダメ、虎汰も虎子ちゃんも悪くない!叱るなら私を叱って!私が全部悪いの……全部、私が……」
「……チィ、それは違うよ。今朝の事を言ってるならあれは巧妙に仕組まれた罠だったんだ。だから誰も悪くない」
段々呼吸が早くなる私に健吾さんは諭すように優しく言う。
けれど納得がいかず私はブンブン首を振って“私が悪いの”と繰り返した。
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