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俺は奨さんと話した内容をふと思い起こす。
まだチィたちと屋上でのんびり過ごしていた時、彼の方から連絡を寄越してきたのだ。
液晶画面に表示された《桂木 奨》という名を目にし、俺はそっとチィの傍から離れてスマホを通話状態にする。
『よう、煌騎♪俺だ、元気にしてるか?』
奨さんの第一声は至って普通だった。
まるで旧知の友に連絡を取ったような相変わらずのノリの良さだ。
だがチームOB、しかも元5代目総長が現総長の俺に直接連絡を取るのは異例中の異例……。
知らず全身に緊張が走る。
『そう身構えるな、煌騎……。ある噂を小耳に挟んだんでちょっと連絡してみただけだ』
「ある噂……?」
俺は首を傾げた。
奨さんほどの人の耳に入る噂など皆目見当もつかない。
彼は大学を卒業すると同時に親が経営する大手流通会社に就職した。
いずれは大きな会社を継ぐ身だが、昔から気さくで自分の立場に驕らず後輩の面倒見も良かったので、今も奨さんの周りには自然と貴重な情報が集まるのだ。
すると彼はクスクス笑うと声のトーンを少し下げた。
『お前、何か珍しい拾い物をしたらしいじゃないか……』
「………あぁ、それか……」
漸く合点がいき、軽く息を吐く。
もうその情報が奨さんの耳に入っているとは、さすがとしか言いようがない。
否定するのも面倒臭いので俺は静かにそれを肯定する。
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