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『実はな、俺も10年前のあの日からずっと疑問に思っていた事がある……』
俺が落ち着くのを見計らって奨さんが静かに話し出す。
あの惨劇があった日、チームのたまり場である倉庫には数多くの幹部OBと、その子どもたちが集められていた。
招集をかけたのは初代総長である俺の父親だ。
当時鷲塚組は敵対する組織と抗戦の真っ只中で、街全体が緊迫した空気に包まれていた。
いつ、何処で誰が巻き込まれるともわからない状況だ。
そんな中、何故集められたかはわからないがその場にはまだ幼い虎汰や虎子、その他たくさんの子どもたちの姿があった。
その所為が普段よりも厳重に警備されていた溜まり場……。
にも拘らず何処からかヒットマンが複数侵入し、初代No.2の鷲塚さんは最初の銃弾で呆気なく命を落とした。
『あの時倉庫内にはお前を含め10人くらいのガキがいたが、無傷で助かったのは双子だけだ』
「それは奨さんが命懸けで守ったからじゃ……」
彼の言わんとしている事がわからなくて首を傾げる。
だが奨さんは電話口で“違う”と短く言う。
確かにあの場にいた子どもの殆どが生きては帰れなかった。が、それが俺の父親の失踪とどう関わりがあるというのだ……?
ますますわからなくなる。
『当時俺はまだ15才だった。そんな俺に何ができるっ!? 虎汰と虎子は双子だった為に見逃して貰えたに過ぎない。よく思い出してみろ!あの場にいたのは大半が女の子だっただろっ!?』
「―――あ、」
奨さんの言葉で俺の中にある仮説が生まれる。
鷲塚の跡目は既に息絶えていた。なのに奴らは逃げる子どもたちにも追っ手を差し向けた。
そしてその時に俺の知る“女の子”は誘拐され、戻ってきた時にはまるで別人のようになっていたのだ。
「―――まさか奴らの目的は初めから“愛音”だったと言うのかッ!?」
『まぁ、あくまで俺の仮説だがな…。あの時お前の親父さんは鷲塚さんに娘を託されていた』
それで失踪した理由もつくと奨さんは言う。
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