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「あの…健吾さん、本当にキッチン勝手に使ってもいいの?」
「ん?大丈夫、大丈夫♪要は汚さなきゃいいんだから☆」
私の問いに健吾さんは平然と笑顔で答える。
隣の部屋に移動した私たちは紅茶を淹れるという彼に付き添い、和之さんの大事にしているキッチンへ無断で侵入していた。
それでふとさっき彼とパンケーキを作る約束をしていた事を思い出し、健吾さんに何気なく伝えたら今から二人で作ろうという話になったのだ。
でも和之さんは普段から人がキッチンに入る事をあまり良く思っていないようなので、なんだか申し訳ない気がして私の胸はドキドキが止まらない。
なのに健吾さんは気にした風もなくずけずけと入って中を引っ掻き回し始める。
「あいつは男の癖に細か過ぎんだよ!少々汚れても死にはしないっつーの!! さっ、チィ始めよっか♪」
「う、うん。けど……」
ボウルや赤い線が引かれた透明のカップ、それに何に使われるのか用途のわからない道具を引っ張り出しながら言う健吾さんに、私は頷きながら尚も尻込みしてしまう。
罪悪感がどうしても消えないのだ。
この3日間でいかに和之さんがキッチンを大切に扱っていたかを見ていただけに、彼の神聖な場所を汚しているような気になる。
すると健吾さんは徐に小麦粉の入った袋を逆さまにし、勢い良く中身をボウルに放り込んだ。
途端に白い粉が宙に舞い、私の視界を遮る。
「―――ちょっ、ゲホゲホッ!! …健吾さん何してるのっ!?」
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