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咽せる私を尻目に健吾さんはゲラゲラと笑いながら鼻を擦る。
するとお約束のように白い粉が彼の鼻先に付着した。
ここは笑っちゃいけないと思うのに、得意顔の健吾さんを見ると堪えきれなくなる私……。
「プッ……け、健吾さん…は、鼻に粉がっ!プククッ」
「ムッ、笑ったな?仕返しだ!チィもこうしてやる!! 」
言うなり健吾さんは粉まみれの手を私の頬に擦り付けようとした。
けど寸でのところで躱(カワ)した私は、また捕まってはいけないと素早くその場から逃げ出す。
が、驚くほど俊敏に動く彼に敵わず瞬く間に拘束されてしまった。
その拍子に腕がボウルに当たり、派手な音と共に小麦粉を床に散撒いてしまう。
でもそれに気を止める余裕はない。
健吾さんが笑顔のまま私を後ろから羽交い締めにし、シンクの上にも散らばった粉を掴み顔全体に擦り付けようとするからだ。
「キャーッ、やめてよ健吾さん~!」
「ダ~メ!チィも俺とおんなじになれ♪」
「え~、やだよ~!キャハハ♪」
いつの間にか私は楽しくなっていた。
今まさに真っ白な粉を擦り付けられようとしているのに笑いが止まらない。
それに健吾さんも手加減してくれているのか、非力な女の力でも彼の腕は簡単に押し退けられて際疾いところで止まっている。
だから遊んでくれているのだと思った。
私に寂しい思いをさせないように……。
のけ者扱いする形となってしまった今回の処置は、決して彼らの本意ではないと教えたいのだろう。
どちらかといえば仕方なくといった感じだった。
あくまで私は部外者だから……。
それを彼らも心苦しく思ってくれている。なら、それだけで充分だ。
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