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健吾さんにも感謝しかない。
こんなに私を楽しませてくれて本当にいい人だなと思った。
「………ありがと、健吾さん……」
こっそり小声で呟く。
けれど私に粉を被せるのに夢中の健吾さんはその声に気づいていないようだった。
でもそれでいい。
気を遣われるのはもうイヤだから……。
「………あ……」
ふと私は動きを止める。
視界の端っこに黒い物体が素早く動くのが見えたからだ。
昨日の夜、和之さんがアレを見つけたら何があっても直ぐ自分を呼ぶよう言われていたのを瞬時に思い出す。
アレはハンショク(?)能力がスゴく高い生き物らしく、1匹見つければ陰に何百匹といるのだという。
健吾さんにそのことを知らせようと後ろを振り返ったら、ものの見事に彼の右手が頬に当たって真っ白に汚れてしまった。
「あっ!ごめん!! 大丈夫か!?」
不意に振り向いた所為で驚いた健吾さんは、慌てて私の頬についた粉を払い除けようとする。
だけどアレを発見して動転していた私はその手をがむしゃらに制す。
「健吾さん、違うの!あそこッ!! ほら、あそこにゴキ……」
「―――うわああああぁッ!?」
言い終わらない内に健吾さんが悲鳴に近い雄叫びを挙げる。
私はビックリしてキョトンと呆けてしまった。
どうやら彼は名前を聞くだけでも悍(オゾ)ましくて身の毛が弥立(ヨダ)つほどアレが苦手なようだ。
今直ぐにでも泣き出しそうな表情で女の私に縋りついてきた。
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