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そこは俺や男連中は身体が大きい為に手すら届かないし、女の虎子や優子さんでもソファが邪魔をしてテーブルの下には潜れない。
そうしている間にチィはどんどんと奥へ逃げていき、遂にはソファの下の僅かなスペースに嵌り込んでしまった。
今の彼女は尋常じゃない。
これ以上は刺激しないようにと慎重に周囲を皆で固め、出てくるよう説得を試みるがやはり怯えてパニックを起こしたチィの耳には届かなかった。
「うぅっ、ヒック…こうちゃん…助けてぇっ、怖いよぉ!ヒック……こう…ちゃあぁんっ」
彼女は悲痛に泣き叫び、必死に誰かの名を繰り返し呼んでいる。
確かそれはチィが監禁されていた時に寂しさのあまり創り上げた架空の人物の名だ。
ということは夢の続きだと錯覚を起こしている可能性がある。
こんな事は専門外ないのでどうしたらいいかと考え倦ねていると、外からけたたましいブレーキ音が鳴り響いて店先に停止した。
それから間を置かずに店の扉が激しい音と共に開け放たれ、血相を変えた煌騎が息も荒く店内へと入ってくる。
何故か俺は奴の姿を確認した途端、心底ホッと胸を撫で下ろしてしまった。
これでチィの止めどなく流れる涙を止めてやれる。
俺の力では無理だったけれど、これ以上チィに悲しい涙を流させないで済むと思ってしまったのだ。
だがそれでいい。
彼女の瞳には初めから煌騎しか映らなかったのだから……。
俺はチィを守れるなら何でもする。
他人(ヒト)よりも辛い経験をし、己を守る術をまったく知らない無知な彼女をただ幸せにしてやりたかった―――…。
和之side end.
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