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「……チィ?そんなところで何してる。かくれんぼか?」
ブルブルと震えていたら同じくらいの高さから男の人の穏やかな声が聞こえてきた。
恐々と振り返るとそこには見覚えのある人の姿がちらりと見える。
―――あぁ、
………煌騎だ。
さっき出ていったはずの彼が床にどっかりと腰を落ち着け、胡座をかいてこちらを静かに覗き込んでいた。
そして私を落ち着けるよう優しく微笑むとそっと手を差し伸べてくれる。
「ほら、こっちに来い。もう大丈夫だから……な?」
でも私はぷるぷると首を横に振った。
本当は今すぐにでも煌騎の傍に行きたい。
だけど彼の顔を見た途端に緊張の糸が切れたのか、身体が急に動かなくなってしまったのだ。
パニックとなった私は先ほどから息苦しかった呼吸が更に荒くなる。
「煌騎ぃ~!ヒック……助け…てぇ、苦し……息がっ…できなっ…!? ハァハァ」
必死に手を伸ばすけど後少しというところで届かない。
手足が震えて既に自力では彼の元へ行くのも困難となっていた。
「煌…騎ぃ~!ハァハァ、こう…き……助け……っ」
もうダメだと意識を手放し掛けた瞬間、辺りがフッと明るくなる。
何が起こったのかと思う間もなく私の身体は煌騎の腕に素早く引き寄せられた。
朦朧とする意識の中、横目で見ると虎治さんと和之さんと流星くんの3人が据え置きのテーブルを力技で持ち上げている。
「もう大丈夫だ、チィ怖かったな。離れて悪かった」
見上げると私をそっと抱き締め、優しく労るように背中を擦る煌騎が申し訳なさそうに顔を歪めていた。
そんな顔はさせたくないのに余力すら残っていない私は首を振る事もできない。
息ができずヒューヒューと喉の奥を鳴らしながら、涙でぼやける視界の中で優しい彼を見つめ続けるだけで精一杯だった。
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