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虎子ちゃんは気持ちが報われなくても、密かに想うだけでそれにはちゃんと価値があると教えてくれた。
だけど私は住む場所や食べるもの、着るものですらすべて彼に与えて貰った。
これ以上を望むのは贅沢というものだ。
深呼吸して心を落ち着かせると、私は煌騎の顔を真っ直ぐに見上げた。
「イヤじゃ…ないよ。だってアレは応急処置だったんでしょ?それに、もしそうじゃなかったとしても私は煌騎になら何をされてもいいよ」
それは絶大なる信頼からくるものだと印象付ける為に、敢えて満面の笑顔でそう答える。
彼の負担を少しでも軽くしたい……。
私なんかがこっそりでも想いを寄せていたら煌騎だってイヤな思いをする筈だ。
なのにそう言った途端に彼の表情は曇った。
まるで望んだ答えが返ってこなかった時のような、なんとも言えない面持ちになる。
「煌…騎……?どしたの?」
「………チィの望むものってなんだ?お前は俺に何を望む?教えてくれないか……」
「え、あ…あの……煌騎……?」
少し熱を帯びたような眼差しで躙り寄られて私は戸惑った。
いつもの冷静な煌騎じゃないような気がしてちょっと怖い。
でも怯える私を無視して尚も彼は躙り寄り、遂には車内の隅に追いやられてしまった。
後ろにはもう逃げ場がない。
どうしようと思う間もなく煌騎は私の上に覆い被さってきた。
「こ、煌…騎……ッ!?」
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