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「イヤじゃないというなら何故お前はココに触れていた?」
彼は左手で私の顎をくいっと持ち上げると、もう片方の手の指先で唇の輪郭を艶かしくなぞる。
そして触れるギリギリまで顔を近づけて瞳の奥を覗き込んできた。
「望めよ、チィ…。お前はもう一度俺とのキスを望んでいるんじゃないのか?」
「ち、違う!望んでなんかないよぉっ」
まるで人が違ってしまった煌騎に戸惑い、私は必死になって首を横に振った。
自分の気持ちがバレてしまわないように……。
けれどそれを嘲笑うように彼はクスリと笑う。
「フッ……本当に?俺とはもう唇を合わせたくない?」
「―――ッ!?、」
後数センチで触れてしまうような位置まで近づかれて私は思わず瞼を閉じた。
目の前に妖艶な笑みを浮かべた煌騎の顔が迫っていて、とても耐えきれそうになかったからだ。
決してキスを望んだからじゃない。
なのに煌騎は無情にも私の唇に自分のそれを軽く押し付けた。
何度も何度も、角度を変えて……。
辺りには湿ったリップ音が響く。
おそらく前方の運転手さんも事の異変は気づいているだろうが、決して助けてはくれない。
彼は以前、仕事中は空気になるよう心掛けていると話していた。
それだけ煌騎は絶対的な存在なのだ。
でも、こんなの―――…
「煌騎…止めて、お願い……んっ」
止めてと懇願するもキスは深くなり、呼吸も段々と苦しくなっていく。
どうして彼が突然こんなことをするのかまったくわからなかった。
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