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角度を変えながら何度もチィの甘美な唇を味わう。
もう止まらなかった……。
隣で無防備に眠る彼女の姿を幾日か見ただけで、俺の理性は脆くも崩れ去る。
その合間に車は倉庫の敷地内に到着し、入り口付近に見馴れた男が立っているのが視界の隅に映ったが、唇を放す気にはなれなかった。
そいつの存在を無視して尚も甘いチィの唇を堪能していると、背後から並々ならぬ殺意を感じ瞬く間に外へと連れ出される。
俺はウザったいと思いながら不機嫌な感情そのままに、漸くそいつの方に向き直った。
「………なんだ、健吾。俺はお前を呼んだ覚えはないが?」
「お前になくてもこっちにはあるんだよ!! 今のは合意の上ではないんだろ!? 例えお前でもチィを無下に扱う事は俺が許さないぞッ!!」
目の前に立つ健吾は凄い剣幕で怒鳴り付けてくるが、俺もこいつに邪魔されて気分を害している。
反抗的な眼差しを向けると奴は呆れたように深い溜息を吐いた。
「俺がいない間に何があった……」
「何も……、ただチィが発作を起こした。それで応急処置として口移しで酸素を送っただけだ。だがチィはそれを望んでいなかったと言うから……」
「―――腹が立った…というのかッ!?」
健吾の詰問に俺は不承不承だが頷く。
すると奴は更に深い溜息を吐いて項垂れた。
心底呆れているのだろう。
だが次の瞬間、左頬に鈍い痛みが走る。
それは避けようと思えば避けられた攻撃だが、俺は甘んじてこの身に受け止めた。
自分に非があると自覚していたからだ。
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