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でも直ぐに我に返った私はまた頬をぷくっと膨らませる。
「……じゃあ、煌騎は可愛いのだったらみんなぷちゅってするの!?」
「いや、そうは言ってないが―――…」
「だって可愛かったからしたんでしょ!?」
ふんっと鼻息も荒く腰に手を当てて尋ねると、煌騎は何とも複雑な顔をする。
呆れてる?…でも引っ込みがつかなくなった私は目に入るものすべて手当たり次第に彼の前へ突き出した。
「コレかわいい?ねぇ、コレはっ!? かわいい!?」
「……………………可愛くない」
私の対応に困り果てた煌騎はそっぽを向いてぼそりと呟く。
そしてまた反撃を喰らう前にそそくさと私をいつもの如く片手で抱き上げた。
「飯の準備が出来てる。早く行かないと和之に叱られるぞ?」
少し慌てた風にそう言うと煌騎は空いた方の手で、点滴を吊るしたキャスター付きのポールを押しながら入り口に向かう。
誤魔化した感は満載だが和之さんの名前を出されると極端に弱い私は、渋々だけどそれに従った。でも―――…
「煌騎、アレは…!? アレ、可愛い?」
諦めきれない私はしつこく食堂の席に着くまでその押し問答を繰り返した。
先にきていた周りの皆は経緯もわからず、そんな私たちのやり取りを見て不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの、チィ?あんたが煌騎くんを質問攻めするなんて珍しいわね」
物珍しそうに部屋の隅にいた虎子ちゃんが尋ねてきた。
彼女は昨日別れた時と同様、学校指定の制服を身に付けており、それで漸く私は窓の外に目を向けて夜が明けている事に気づく。
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