忍び寄る影

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. 昇降口を上がって私たちが向かったのは昨日約束した通り、彼らのお気に入りの場所である屋上だった。 今日もいい風が吹いている。 扉を開けた瞬間、私は堪えきれずに煌騎の手からすり抜けると柵のあるところまで一直線に駆け寄った。 そしてお尻の下まである長い黒髪を風に靡かせながら瞼を閉じて上を向き、外の空気を胸いっぱいに吸い込んでそれを堪能する。 「思ったより元気そうだな、チィ。連れてきて正解だったんじゃないか?」 「あぁ、そうだな……」 そう背後で和之さんと煌騎が話してるのを聞きながら、私はワクワクする気持ちでこの屋上から見渡せる街並みを見下ろした。 澄み渡った青空と朝日に照らされてキラキラと輝く街並みがとてもキレイだ。 もっともっと眺めていたくなる。 でもここからだと隣の校舎が邪魔で景色があまりよく見えない。 ヨシッ!と、柵に手を掛けてヨジヨジ登っていると透かさず煌騎が後ろから私の身体を掬い上げた。 「こら、柵はよじ登るなっ」 「あうっ、後ちょっとで登れそうだったのに……」 残念な思いで恨みがましく煌騎を振り返るが、そんな顔をしてもダメだと言わんばかりにそのまましっかりと抱き直される。 すると和之さんがクスクスと笑いながら私たちの隣に並んだ。 「あはは、チィこんなトコから無理に見ようとしなくてもあそこに行けば幾らでも見られるよ」 ホラと彼の指差した先に見覚えのある貯水タンクが見え、そこが昨日いた場所だと知る。 更に『ね?』って優しく宥めるように顔を覗き込まれれば、渋々だけど私はコクンと頷きそこからよじ登る事を諦めた。 .
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