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「お前には今、帰るべき場所がない。だからソレが必要だろうと思った。もしどうしても一人きりになりたくなった時の為に……」
更に抱き締める腕を強めながら、彼は溜息混じりに言う。
まるでそれは己の言葉が足りなかった事を悔いているようだった。
でも私にはそんな姿は微塵も見せまいと無理に口端を上げ、ニヒルな笑みを作る。
「それに何をどう勘違いしてるのか知らないが、今まで通り俺もあの部屋は自由に使わせて貰う。だから心配するな」
「え、……そう…だったの……!?」
途端に私は恥ずかしくなる。
すべては自分の早とちりだったのだと知り、カーッと頬を朱に染めて煌騎のシャツの裾を掴み詰め寄ると、周りからは笑いが起こった。
「チィは何にでも一生懸命だけど、いつもどっか抜けてんだよなぁ♪」
「あら、それがチィのチャームポイントなんじゃない☆」
双子の兄妹が面白おかしく私を揶揄する。
その隣で和之さんは朔夜さんの肩に凭れ掛かるようにしながらクスクスと笑い、朔夜さんもいつもと変わらない表情に見えて口端が微かに上がっていた。
そんな中で流星くんだけは一人仏頂面だ。
自分だけ何も用意していなかったのが気に入らないのだろう。
「なんだよ、俺だけがっ―――…」
「相変わらずここはバカな連中が屯してるのか?余程の暇人だな……」
突如流星くんの言葉を遮って下の方から声が響いた。
瞬時に和之さんたちの顔が険しくなり、互いに目配せして私の周りを囲い臨戦態勢を取る。
煌騎は私を虎子ちゃんに預けると静かに立ち上がり、声のする方へと近づいた。
そして下を見下ろしながら静かに口を開く。
「珍しいな、お前が供も連れずにここへ来るなんて……。で、何の用だ?常磐」
物静かな口調だが声音には怒気が含まれている。
その名を聞いて私はピクリと肩を揺らし、辺りには忽ち緊迫した空気が漂った。
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