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「や、やーっ!? 虎子ちゃん助けて~っ」
優しい笑みに見えたのは幻だったようだ。
間近で見た煌騎の瞳は少しも笑っていなかったし、私の身体を拘束する腕もいつもより強引で痛い。
腰をぎゅっと強く抱かれ、そのまま上に抱き上げられれば何故か安堵の表情を浮かべた彼の面差しとぶつかった。
その時になって私は漸く煌騎に多大な迷惑と心労を掛けてしまった事に気づく。
なので反省の意味も込めてアッサリと抵抗を止め、彼の腕の中にシュンとなりながらも大人しく収まった。
それを見た煌騎はちょっと困ったように表情を崩す。
「本気にするな、冗談だ……」
「ほえ?そう…なのッ!?」
怒られる事を覚悟していたからか私の顔からは笑みが溢れる。
すると背後で堪えきれないというように虎子ちゃんがプッと吹き出す。
「当たり前でしょ?アンタには激甘な煌騎くんが、罰なんか与えるワケないじゃない♪」
「………そ…か……。なんだ、煌騎は私をブタないんだ。良かった……♪」
「「―――…ッ!?」」
そう言った途端二人は驚いたように息を呑み、そして次には深く後悔の色を滲ませながら顔を歪めて言葉を失った。
おそらく私の過去の境遇を思い出したのだろう。
だけど心の底から安堵している私はその事には気づかない。
ニコニコしながら自分には危害を加えないという煌騎の首に腕を回し、純粋にブタれない事を喜んでいた。
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