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もう、どうしたらいいのかわからなかった。
頭がスゴく混乱していて、正常な考えもできなくなっている。
「煌騎ぃ……助けてぇ…ヒック、朔夜さんが…死んじゃう…よぉ、お願ぃ……」
「くくっ、誰に助け求めてんの?奴がここに来る訳ないじゃん♪だって奴は今頃、愛しの許嫁さまとイチャついてる頃だし?」
縋るように彼の名を呼ぶけれど、亜也斗にゲラゲラと笑われるだけに終わった。
しかもそれだけでなく、衝撃的事実も聞かされて私は絶望感に打ち拉がれる。
煌騎は今夜、恩人さんの名を語った愛音さんに呼び出され出掛けたらしい。
だから何があってもここには来ない、絶対に現れないというのだ。
確かに許嫁の愛音さんと私とじゃ比べるまでもなく、煌騎は彼女の方を選ぶかもしれない。
やっぱり私なんかをわざわざ助けに来てくれる人は、この世にただの一人もいないのだと実感してしまった。
途端に自分の存在が、とてもちっぽけなもののように思えてくる。
「いい加減さぁ、出ておいでよぉ。でないと俺、こいつ殺しちゃうかもよぉ?」
そう亜也斗は笑いながら言う……。
自分の父親によく似た彼が私は死ぬほど怖い。
でもそれより朔夜さんを失う事の方がもっと怖かった。
外へ出てから唯一私に優しくしてくれた一人だから、もう彼には傷付いて欲しくない。
私の中で漸くある決意が固まる――…。
「私が出ていったら…ヒック、…朔夜さん、もう虐めない?」
「――チィッ!! ヤメッ――…ぐあっ!? 」
一際苦しそうな呻き声が扉の前に響いた。
私は慌ててドアの施錠をガタガタと震える手で開錠しようとする。
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