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それから“多少はお強請りしたけどね♪”と澄ました顔で言う。
何処までも喰えない女だ……。
裏があると吐露したも同然の言葉を事も無げに言って退けるこの女は、俺が親父の前では強行に出ない事を知り尽くしている。
俺のアキレス腱であり、重たくなった鎖……。
一生ついて回るだろう奴隷契約を、俺は遥か昔に親父と交わしていた。
父親の無実をいつか必ず晴らしてくれると約束したから……。
バカみたいだと思われるだろうが俺はそれを信じ、親父が望むならと愛音が裏で画策しているのも承知で婚約を承諾した。
あの女に周りからじわじわと固められているようで癪だが、これも運命と疾うに抗う事も諦めている。
だがやはり気に入らないものは気に入らない。
先ほどから置いてきてしまったチィの事も気になるし、そろそろこのくだらない宴とやらを抜け出したい。
何か策はないかと愛音にしなだれ掛かられながら思案していると、屋敷の外と内側が自棄に騒がしい事に気づく。
どうかしたのかとチラリ古風な造りの縁側に目を向ければ、一際うるさいエンジン音がけたたましく辺りに響いた。
その聞き覚えのある騒音に俺は直ぐさま愛音を押し退けて立ち上がり、襖を開けて外へ出ていけば家屋を囲む塀から黒い物体が乗り越えて広い庭園に着地する。
そして横滑りしながら砂利を巻き上げ、砂煙と共にそれは停車した。
―――和之、やり過ぎだろ。まぁいいが……。
見覚えのある大きな黒い物体は間違いなく俺の単車で、それに跨がる男もメットを被って顔は確認できないがその風貌は正しく和之のものだった。
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