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「よっ♪待たせたか?」
悪びれる事なく予備のメットを俺に投げて寄越しながら、全身黒ずくめのライダースーツを身に纏った和之がいつもの口調で声を掛けてくる。
まったく普段通りの振舞いに思わず吹き出しそうになるが、奴がここまで行動を起こす理由を鑑みて俺は笑いを引っ込めた。
「………チィに何かあったか」
「あぁ、ご察しの通り亜也斗が動き出した。正確には吉良が…だけど、な」
俺は僅かに顔を顰める……。
いつか裏切るとわかってはいたが迅速に動きすぎる。奴は仕える事しか能のない小者だ、所詮は駒に過ぎない。
―――裏で操っている人間がいる。
そこまで考えて俺は後ろを振り返り、愛音の姿をその目に捉えた。
今回の黒幕はあの女で間違いない。それを証拠に先ほどから俺たちの様子をニヤニヤした目付きで眺めている。
何かを知った風な眼差しだ……。
深い溜息を吐くと俺はもう興味がないとばかりに目線を戻し、和之からバイクを受け取ろうと手を伸ばす。――が、室内から親父がのそりと出てきてそれを止めた。
「何処へ行くつもりだ、煌騎。まさか儂を置いて拾ったとかいう薄汚い小娘なんぞを探しに行く気じゃないだろうな?」
「ハァ……そのまさかだよ。クソ親父、一つ忠告しといてやる。その女に拘ってばかりいると却って組を潰し兼ねないぞッ!!」
俺は言いたい事をぶち撒けると予備のメットを頭に被り、今度こそ和之からバイクを受け取ってそれに跨がった。
長すぎる脚が空を蹴ってヒュッと小気味良い音が鳴る。
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