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《愛音side》
まったく、イライラする……。
あの忌々しい男さえ現れなければ、もう少し時間が稼げたというのにホント腹立たしいったらない。
お祖父様に強請って漸く煌騎をあの女から引き離せたのに、突如乱入した和之によってまんまと彼を逃がしてしまったのだ。
どうにも怒りが収まらず私は一人自室に篭り、先ほどから右手の親指の爪をずっと噛み続ける。
「いつにも増して荒れてるな、お嬢……ククッ」
「――うるさいわよ、神埼ッ!!」
不意に部屋の襖が開け放たれ、無遠慮に中へと入ってきた男に私は手元にあったクッションを思いっきり投げつけてやった。
けれど神埼は難なくそれをヒョイと横に避けると、嘲笑うように口端を弓なりに上げてソファに座る私を見下ろす。
見慣れた不愉快極まりないこの顔はこんな時も更に私の怒りを掻き立てた。
ボディーガード兼世話係という名目で、いつもこの男はこうして勝手に人の部屋へ入ってくるので正直困っている。
「ハァ……ところで何の用よ。あの招かざるお客様はお帰りになったの?」
深い溜め息を吐きながら顔も見ずに問う。“招かざる客”とは言わずもがな和之のことだ。
あの男は事前に親許へ連絡を入れていたらしく数時間後、日本弁護士協会現理事長を勤めている不破和正とその娘、不破幸乃が彼を迎えにきた。
男は和之の祖父、女の方は母親らしい……。
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