1036人が本棚に入れています
本棚に追加
.
意を決して深い深呼吸を2~3度繰り返すと私は前を向き、重たい口を開いた。
「煌騎には既に決められた人がいるって言われたの。だからせいぜい遊ばれて捨てられればいいって……」
思っていた以上に堪えてたのか、その言葉を口にした途端に唇を噛んでうつむいてしまう。
でも何故それが胸に突き刺さるのかはわかっていなかった。
まだ恋を知らない、
したことがない私……。
ただ漠然とした不安が臆病者の私を逃げ腰にする。
さっきまでは現実を見ようとせず、虎子ちゃんとの楽しい時間に逃げようとしていた。
そんな自分が急に恥ずかしくなり、更に顔をうつむかせると虎子ちゃんが苦笑を零し、頭を優しく撫でてくれる。
「……そっか。あのバカ女、ホント余計なこと言ってくれたもんだ」
深い溜め息を吐き、ほとほと呆れ返った顔をする。
でも彼女の瞳が少し困ったように揺れたのを見て、“あぁ、あの女の子が言った言葉は本当なんだ”と悟る。
何となくだけど、わかってはいた。
あれだけ容姿が整っていて背も高く、包容力もあれば女の子が放っては置かない。
私は出逢うのが遅すぎたのだ。
ただそれだけ……。
.
最初のコメントを投稿しよう!