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奇しくも跡目が亡くなった数日後、身体の弱かった母親は娘の誘拐もあって心労が祟り、夫の後を追うように息を引き取っていた。
実の両親が亡くなった以上、娘が本物か誰も確認の取りようがない。
親父は事件後に初めて顔を合わせたのだから……。
その後ガキの力だけではどうすることも出来ず、月日だけが無駄に過ぎていった。
そこへチィが現れたのだ―――…。
すべては俺の見当違いなのかもしれない。
チィは自分の名を覚えていないと言うし、幼少の頃の愛称は“チィちゃん”だという。
容姿も面影は似ているが、長い年月が俺から確信を遠ざける。
けれどチィは確かにあの“女”に似ていた。
おそらく同じ環境で育っていれば、二人は双子のように瓜二つとなっていただろう。
だがどれも臆測の域を出なかった。
だから今日、親父と会って何か情報が引き出せればと密かに期待していたのだが……。
遅くに料亭へ現れた親父の後ろには、何故かあの“女”の姿があった。
しかも満面の笑顔で……。
一瞬だが俺の背中に嫌な汗が流れる。
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