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こんな時の愛音は必ず何かを企んでいる。
俺はなるだけ平静を装い、逆に尋ね返す。
「お前が何故、それに興味を示す?箱入りは箱入りらしく鉄壁の箱に入って守られてろ」
「フフッ、相変わらず冷たい人。それを言われたら私が黙ると知ってて言うんだから……」
まるで堪えてもいないとでもいうようにクスリと笑う愛音。
まぁ親父の手前、悲しげな仕草はわざとらしくも見せるが、俺に向ける目線はまったく堪えた様子もない。
「愛音、煌騎はお前の身を案じてあー言っているんだ。聞き分けなさい」
そこへ鼻の下をデレデレに伸ばしたクソ親父が勝手にほざく。
どこの世界もジジィは孫娘には弱いモノだ。
愛音も親父の言うことには逆らえないので、助かったと言えば助かったのだが……複雑な心境だ。
「話はそれだけか?…なら、飯にしよう。今日こそは晩酌を付き合ってくれるんだろうな、煌騎」
手を叩いて女将を呼び、食事の用意をさせながら親父は口端を上げてニヤリと笑う。
どうやら今日は拒否権はなさそうだ。
「…………頂きます」
諦めの境地で深く溜め息を吐くと、俺は自分の前に置かれてある杯をそっと手に取った。
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