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「―――随分と締まりのねー顔してんじゃないか、煌騎」
背後から声を掛けられてピタリと脚を止める。
聞き覚えのある声に辟易しながら振り返ると、ここにいる筈のない男が立っていた。
愛音のボディーガード、神崎 徹(カミザキ トオル)だ。
嫌な男に会ってしまった。
四六時中、愛音に張り付いていると聞いていたが、何故ここに……?
あぁ、そういえばさっき撒いてきたとか言ってたな……。
「……愛音ならもう屋敷に帰ったぞ。こんなトコ彷徨いてていいのか?」
さも面倒くさそうに言ってやると、奴はフンッと鼻で笑いやがった。
年下のガキの戯れ言と流されたようだ。
やはりこいつとは反りが合わない。
いずれ愛音と結婚し、正式に鷲塚組に入れば奴は俺の下に付く事になっているが、――先が思いやられる。
「……何の用だ。俺もお前に付き合ってやるほど暇じゃないんだが……?」
「………フッ、」
痺れを切らせて言葉を発するとまた失笑……。
―――何なんだ、こいつ。
構ってられないと歩みを進めようとしたらまた声を掛けられた。
「……お悪戯(イタ)はほどほどにな、次期“若頭”」
そうたっぷり嫌味を含んだ口調で……。
それだけ言って気が済んだのか、神崎は俺に背を向けてそのまま去っていった。
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