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初診の治療を終え、迎えに来た母が事務員に保険証を提示して支払いを済ませる。センセイは母に治療の説明をし、抜歯したことを伝えた。今は麻酔が効いているが念のため鎮痛薬を処方する、傷口を消毒するのに明日も来ること、歯垢除去のため数回通院が必要だと伝えた。 「もうっ! 痛いって言ってるじゃない」 「痛みって快感に繋がるらしいよ。知らない?」 カウンター越しに説明する間、私は待合室のシートに腰掛けていた。その間もセンセイの香水は私の鼻を突いて私の神経の全てを麻痺させていた。 母が深々と頭を下げ、センセイも会釈をする。その直後センセイは私をチラリと見た。何かを見下すような冷たい視線だった。歯科医院を出て母が運転する軽自動車に揺られる。抜歯した箇所が直に痛みだした。
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