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「なんだ、演歌が無くてがっかりしたか」 「してません」 「小川が演歌好きなら俺も買うぞ」 「だから部長」 ははは、と部長は笑った。車は山を登り切ったのか、車体が平らになる。直に視界が開けて湖が見えた。部長は湖畔の駐車場に車を止めた。時計を見ればまだ9時過ぎ、開いた運転席のドアから入り込む空気に身震いした。部長は後部席から大きな四角いバッグを持ち、湖畔に向かう。私も車を降りた。 空いているベンチにバッグを置くと部長は湖に向いて伸びをする。その後ろで私も軽く深呼吸した。澄んだ空気は冷たくて肺の中までヒヤリとした。その刺激に私は咳き込んだ。気付いた楢和部長は振り返り、着ていたジャケットを脱ぐと私の肩に掛けた。
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