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「田舎育ちだからだな、こういう景色を見てると童心に返る」 童心。私はそんな頃に戻りたくはない。何も知らなかった間抜けなコドモ時代など思い出したくもない。皆は責任の無い自由な幼少時代を夢心地に思うらしいが、そんなものは本当の自由じゃない。 保護膜が破けて世間に放り出されて、夢から覚めてからが本当の自由だと思う。不公平に生まれたのに同じスタートラインに立たされ、一律に設定されたゴールを目指すのは苦痛だ。自分に見合う相手を探し、戯れる。雑種は雑種なりの生き方をしたほうが楽だからだ。 「お握り美味しいです」 「だろう? 部下に新米を貰ってな。兼業農家に嫁いだ奴で野菜や果物も時々貰うんだ」 「部下って女性ですか?」 「ああ。妬いたか?」 「いえ」 「部下って言っても俺より5つも年上だし、既婚者だ」 部長は味噌汁のカップをベンチに置き、空いた指で私の額を小突く。
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