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「そういうとこ、行ったことねえだろ。安いけど味は極上だぜ?」
男はベッドから下り、デスクにあるメモ用紙に数字を殴り書きした。私に走り寄り、その紙を差し出す。携帯番号らしい。
「俺、週の真ん中は公休多いから。焼鳥食いたくなったら連絡しろ」
「万一、気が向いたらね」
「荷台でヒイヒイ言わせてやる」
「荷台はいらないわよ。じゃあね」
ビジネスホテルを出てタクシーを拾う。何がヒイヒイだと言うのか。演技で少々声を出しただけなのに、男は有頂天になる。
暗い車内で鞄の中から二色の光がチラリと見えた。携帯のメール着信と通話着信の両方を知らせるランプ。取り出して見れば楢和部長からだった。先週の靴を汚した詫びの言葉と、仕事上上京する用件が無く、週末に時間を作れないか、との旨が書かれていた。
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