第1話

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道路も、建物もすべてが凍っていた。 まるで氷に閉ざされた街だ。 1975年、ソビエト連邦共和国の首都、モスクワ。 7歳になる大来俊平は、凍てつくような空に下、元気にサッカーボールを追いかけていた。 共にプレーする面々の国籍は実に多彩だ。ポーランドやハンガリー、ユーゴスラビアなど共産圏の割合は多い。俊平のようにジャーナリストの子供もいれば、外交官の子供もいる。 俊平は最も年齢が下で、背丈も一番小さい。ボールは頭上を通過し、足元に落ちても横から長い脚が伸びてきて、なかなか触ることができない。 それでも飽きることなくボールを追いかける。まるで蒸気機関車のごとく、白い煙のような息を激しく吐く。鼻水が鼻腔で凍る。氷点下35度の気温などお構いなしに、いつまでも、いつまでも。
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