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彼女が、許婚の戦死を知っていたはずはない。でも、彼女ははっきり感じていたの。許婚はもう死んでいて、故郷に戻ってきている。そして、幼い頃から一緒に遊んだ、枝垂れ桜の所で待っていると。
子供のすることだけど、二人で満開の枝垂れ桜の中へ入ってゆくのは、ある種の儀式みたいなものだったのよ。だからね、許婚が待っているのならば、枝垂れ桜の下に違いないってね。
船乗りが何もない海の上で、どうやって自分たちの位置を知るか知ってる?ふふふっ、そう。ここで北極星の話につながるの。太陽と五十幾つだかの星の位置、特に北極星は大切なの。北半球なら、昔からある道具と北極星の場所だけで、自分の船の位置が分かるんですって。受け売りの知識だから、私も、詳しくはよくわからないんだけどね。でも、船乗りにとっては、北極星はとても大切なの。北極星が見えれば、帰るべき場所がわかるから。
あなたには北極星がある?私と彼にとっての北極星は、この枝垂桜。二人の距離がどんなに離れていても、この枝垂桜を目指せば、必ず彼に会えるから。だから、私は枝垂桜を絶対に忘れない。彼がどんなに遠くにいても、枝垂桜を思い出せば、必ず帰ってこれる。だから私達はきっと、何十年、何百年経っても、この枝垂桜の下にいるの。ここが、私と彼の北極星だから。
あなたは、あなたの中に北極星を持ってる?
大切なことよ。必ず、あなたの北極星を探してね。
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