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「あの赤い紫陽花が、激流に挑んでいる一握りの人たち。その目的は、部活だったり勉強だったり、いろいろだけどね。そして、その他の青い紫陽花が、アナタを含めたその他の人たち」
確かに、その一角を除くと、他の紫陽花は皆、青か紫色をしていた。
「ねぇ、あの紅い紫陽花と青い紫陽花、どこに違いがあるんだと思う?」
紫陽花の色の違いなんて、気にしたこともなかった。ただ、そういうものだと思っていた。
「種類?いいえ、あの辺り咲いている紫陽花は、青も紅も紫も、全部同じ種類よ。紫陽花はね、白から青に、そして紫へと色を変えるの。でもね、あの紅い紫陽花だけは特別なの」
特別?才能や向き不向きみたいな話だろうか?
「いいえ、あの紅い紫陽花はね、環境が違うのよ」
環境。生まれや家庭環境とか、そういったことを言いたいのなら、確かに僕は青い紫陽花だ。普通の家庭に生まれ、普通の家庭に育ち、何一つ非凡なことなど無い普通の高校生だ。
「あの紫陽花はね、梅雨に入る前に、根本に石灰を撒いてあるの。石灰を撒くと、土がアルカリ性に変わる。そうすると、アルカリ性の土壌のあたりだけ、紫陽花が紅くなるの。この辺りは普通、酸性の土壌だから、人が手を入れないと、あそこまで綺麗な紅い紫陽花にはならないのよ」
彼女はサラサラと流れ続ける水のように続ける。
「紅い紫陽花に石灰を撒くのは誰だか解らない。両親かもしれないし、本人の意志かもしれないし、たまたま誰かに石灰を撒かれただけなのかもしれない。でもね、そうして何かしらの切欠があって、初めて人は他の人とは違う道を見つけるの」
彼女はゆっくりと瞬きをした。
「人は紫陽花と違って、自ら行動することができる。紅くなりたければ、自らの手で石灰を撒けばいい。その手間を惜しむか惜しまないかの違いよ。紅い紫陽花になったからといって、目標が叶うわけじゃない。でも、そもそも紅い紫陽花にすらならなければ、何者にもなれないんじゃない?」
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